Disease of ENT

みみはなのどの病気

画像を記録し、
長期にわたり経緯を観察

急性中耳炎

細菌による化膿性炎症です。
最近、乳幼児とくに2歳以下の急性中耳炎の中にお薬を飲んでも治らない難治例や、一度治ってもお薬をやめるとすぐに耳漏を繰り返す反復例が増えています。

これは中耳炎の原因菌である肺炎球菌インフルエンザ菌の中に、内服薬が効きにくい耐性菌が急増してきているからです。

小児科や内科で内服治療に頼りすぎた治療が続けられると、耐性菌の増加や難治例、髄膜炎の出現という結果になりがちです。

現在、PRSPペニシリン耐性肺炎球菌が60%以上をしめております。また耐性をもったBLNARインフルエンザ菌(ウイルスではなく細菌)も増加傾向にあります。これらの細菌が耳管という鼻の奥にある管を登っていき中耳炎を起こします。


▲肺炎球菌顕微鏡像

中耳炎罹患児は鼻副鼻腔炎をもっていることが多く、鼻の奥をいかにきれいに掃除することも大切です。また、難治例では鼓膜切開などの局所処置が重要になります。


▲発熱を伴う急性中耳炎
(右耳)

▲同様に鼓膜の腫れがみられる
(左耳)

▲中耳腔に膿貯留(右耳)

▲滲出性中耳炎に移行(右耳)


▲鼓膜切開後(右耳)

痛い中耳炎は休日や深夜に多い?

(岐阜ラジオ(AM1431)の番組「岐阜医師会ラジオホームドクター」 平成18年12月28日放送)

痛い中耳炎のことを急性化膿性中耳炎といいます。

風邪をひいた後に、喉や鼻にいる細菌が、耳管を通って中耳に感染して起こります。耳管はあくびや唾を飲み込むことにより、中耳に空気を送り中耳を一定の圧に保つよう働いている管のことです。
特に5歳以下のお子さんの耳管は、大人に比べて短く、傾斜が水平に近いので鼻の奥から細菌が中耳に届きやすいことや、免疫抵抗が大人より弱いことが、中耳炎になりやすくしているのです。

ではどうして、深夜のクリニックがあいていないときに多いように感じるのでしょうか。 この疑問に答えている専門書は見当たらないので、私なりに考えてみました。

  1. 寝ているときには鼻をかんだり、すすったりすることができないため、鼻腔内に鼻汁がたまったままになる、つまり耳管から細菌が上りやすい状態になる。
  2. 夜、入浴することにより、中耳の炎症が強くなり、ちょうど就寝した頃に痛み出す。

では、休日に多いことにはどんなわけがあるのでしょうか?
休日の当直日誌を調べてみると、平日の患者数と大差ありませんでした。
実は、休日に多くみられるわけではなく、耳鼻科診療が受けられないため、お母さんやお父さんが診てくれるところを探し回ることになり、そのような印象があるようです。

鼓膜が真っ赤になり、腫れ上がると、中耳の膿を取り除かないとなかなか痛みがとれません。鼓膜に麻酔して切開をするのですが、この手術は耳鼻科の専門医でないとできないのです。救急病院の当直医に耳鼻科の先生がいることはまれで適切な治療が受けられないのです。

急性中耳炎は風邪のはやる寒い時期に多いので、明日からのお正月休みに備えて、病院にかかっておきましょうか。

小児ぜんそく

成人の3%、小児の6%がぜんそくにかかっていると考えられています。

◇「ぜんそく」とは?

ぜんそくは、気管支の過敏性のため、気管支が収縮し狭くなることによりおこります。
発作のときにはゼイゼイ・ヒューヒューという音を伴う呼吸をしたり、咳がでて苦しくなる病気です。小児の場合はダニ、ハウスダスト(家塵)、動物(イヌ、ネコ、トリ)のフケなどのアレルゲン(原因抗原)に対する抗体を持っているアトピー型ぜんそくです。

◇アレルゲン

最近は血液検査でお子さんが何のアレルギーであるか?調べることができます。検査でアレルゲンが判明したら、そのアレルゲンを家庭周囲の環境から除去する努力が必要になります。ダニやハウスダストがアレルゲンである場合はジュウタンをフローリングに変更したり、布団を掃除機でまめに吸い取ったりしてください。動物にアレルギーのある方のみならず、ぜんそくのお子さんは動物を飼うことを避けてください。

◇環境因子

小児では風邪でもぜんそくがおこります。かぜにより気管支の粘膜が弱るとアレルゲンとの反応が急速におこりぜんそくが発症します。かぜが治るとぜんそくもおさまりますが、アレルギー体質が治ったわけではありません。

運動誘発ぜんそくとはぜんそくのお子さんが、急に激しい運動を始めたり、長距離を走った時におこります。特に冷たく乾いた空気を吸う冬季に多くみられます。逆に温水プールでの運動では起こりにくく、ぜんそくのお子さんには水泳が勧められます。

天気の変化つまり気圧の変化により誘発されることもあり、台風の前後には発作を起こされることがあります。また、大気汚染、タバコの煙、精神的緊張により誘発されることもあります。

アスピリンなどの鎮痛解熱薬で誘発されることがあります。成人のぜんそくの10%にみられます。風邪薬の中にも含まれるものもあり、薬を飲むときは医師の指導を必要とします。

◇ぜんそく治療の3つの大原則

A)気管支の炎症をおさえること。
B)狭くなった気管支をひろげること。
C)アレルゲンをできるだけ避けること。

A)気管支にはアレルギー型の炎症がおこっています。そのため、少し気の長い話になりますが、半年から1年のあいだ炎症の原因物質であるロイコトリエンを押さえるお薬かステロイドの吸入薬を続けます。どちらも副作用は少なく、この治療がベースになります。自己判断で治療を中断しないでください。

B)発作がおこっている場合は狭くなった気管支を広げる必要があります。気管支拡張剤(飲み薬)や気管支拡張剤の貼り薬、吸入薬があり状況に応じて使い分けます。ただし、副作用もありなるべく短期間でとどめられるように調節します。

C)お母さんはアレルゲンをお子さんに吸わせないように徹底的に家庭環境を整えてください。これを怠るとぜんそくの治療を終了することができなくなります。しかし、親戚や友人の家で吸い込んで発作を起こすこともありますのでご注意をおねがいします。

◇耳鼻科と小児ぜんそく

成人とは異なり小児のぜんそくは70%が治癒します。逆に不十分な治療では、成人に持ち越してしまうこともあります。鼻づまりや後鼻漏(痰)は上気道抵抗を悪化させ、ぜんそくの治りを悪くします。当クリニックでは、耳鼻科の利点を生かしつつ、早く治癒グループに入れるようにお手伝いしたいと考えています。

滲出性中耳炎

急性中耳炎に比べ症状があまりありません。中耳腔には急性中耳炎のような炎症性の膿がたまるのではなく、ねっとりした液体がたまるだけで、耳痛、耳漏、発熱はみられません。症状は難聴だけであり急性中耳炎とは異なります。

子供は耳が聞こえにくくても自分では訴えません。そのため、親の判断で通院をやめてしまうことがよくあります。

放置していると、難聴のため言葉の発達が遅れたり発音が障害されたりします。また、治癒しないと真珠腫性中耳炎癒着性中耳炎の原因になり、生涯難聴が残りますし、入院手術が必要になります。

【治療方法】

1) 鼻とのどの治療

鼻やのどの弱い子供に多いので、鼻やのどをしっかり治療します。

2) 通気治療

耳と鼻を結ぶ管(耳管)から空気を送ることによってたまった液の排泄を促します。

3) 鼓膜切開

鼓膜に麻酔をしたのち、鼓膜に小さな孔をあけて中耳にたまった液を取り除く方法です。鼓膜は再生力が強いので繰り返し行っても心配はありません。

4) 中耳換気チューブ留置術

鼓膜切開を行っても治りが悪い時には、鼓膜切開後に小さなチューブを挿入します。
3から6ヶ月をめどに挿入しておきます。
聴力の改善が行えるほか、中耳粘膜の正常化を促し完治させることができます。

5) アデノイドの切除

この手術が必要になることは多くありません。アデノイドは耳管の出口にあるので、アデノイドが大きいと耳管をふさいでしまいます。そのようなときは全身麻酔下でアデノイドを取り除きます。


▲初期、少量の浸出液
(右耳)

▲泡状にみられる浸出液
(右耳)

▲中耳腔に充満する浸出液
(右耳)

▲中耳換気チューブ留置
(左耳)

蓄膿症

昔のような青ばなを垂らした子供さんはあまり見かけなくなりました。これは細菌感染が主体の蓄膿症で、抗生物質が発展した現在では治療が容易になったからです。蓄膿症とは副鼻腔に炎症が生じた状態を表す俗語です。

鼻水が止まらないとお母さんは風邪が長引いているとお思いです。実際には蓄膿症の初期はそんな症状で始まります。現在の蓄膿症は、アレルギー性鼻炎に細菌感染が合併していることが多く、良くなったり悪くなったりを繰り返します。細菌を叩くだけでは完全にはよくならず引き続きアレルギーの治療が必要になります。

副鼻腔の炎症を診断するには顔のレントゲン検査をいたします。副鼻腔の粘膜はアレルギーの関与が大きいほど肥厚しています。治療には1ヶ月以上かかることもしばしばありますが子供のうちのしっかりと治しておけば、成人に持ち越すことはありません。

【治療方法】

1) 抗生剤の投与

マクロライド系の抗生剤を投与します。細菌の抑制のほか粘膜の免疫力を高めたり、粘膜表面にある繊毛の運動を活発にさせる作用があります。治療に時間がかかる場合は少量長期投与といって、投薬量を半分以下にして3ヶ月をめどに飲んでもらいます。

2) 抗アレルギー剤の投与

抗アレルギー剤の投与を併用します。また採血でアレルゲン(アレルギーの原因物質)を同定して予防していただくことも重要です。 レントゲンにて副鼻腔の病変が消失するまで行います。


▲治療前6歳男児

▲治療後2ヶ月

蓄膿症の原因はアレルギーが急増

(岐阜ラジオ(AM1431)の番組「岐阜医師会ラジオホームドクター」 平成18年12月21日放送)

蓄膿症とは俗語であり、本来は急性副鼻腔炎と呼びます。鼻風邪をひき、これが引き金となって鼻腔の炎症が副鼻腔まで拡がると、鼻水や鼻づまりに引き続き、頭痛、発熱、顔面痛、歯痛などの症状が出ます。これが急性副鼻腔炎です。鼻の粘膜に細菌やウイルスが感染し炎症が起こると、粘膜が腫れて、鼻腔と副鼻腔をつなぐ小さな孔(これを「自然孔」と呼びます)が閉塞し、副鼻腔にたまった膿汁が排泄されなくなりたまってしまうのです。

最近は急性副鼻腔炎にアレルギー性鼻炎を合併するケースが増えています。施設によって差はあるでしょうが、広島大学医学部耳鼻咽喉科のデータでは37~38%、私どもののクリニックでは約半数の50%の方に合併があるように感じています。

このような背景には、次のような理由があげられます。

生活習慣により、ほこり、ダニ、といったアレルギーの患者さんが増加したこと。また、現在の抗生物質は非常に優れており、鼻風邪をひいても副鼻腔炎になるまでこじれにくくなったのですが、アレルギーの方はすでに鼻や副鼻腔の粘膜が腫れており、自然孔が閉塞しやすく、こじれてしまうのです。

ですから、急性副鼻腔炎は免疫力の低下した高齢者に多く罹患するのではなく、花粉症をお持ちである働き盛りの20~40代の人たち、ほこり、ダニの通年性アレルギーの子供たちに多いのです。

細菌感染とアレルギー、原則として症状の強い方を重点的に治療していきます。普通はアレルギー性鼻炎の症状が強いことが多く、抗ヒスタミン薬の内服やステロイド点鼻薬などの薬物療法を中心にマクライド系抗生物質を併用していきます。

お薬ではなかなか治せない場合は、副鼻腔に局所麻酔した後、穿刺針を入れ、中の膿を吸出します。慢性化しないようにしっかり治しておくことと、普段からアレルギーの手当てをしておくことが重要になります。

繰り返す鼻血は要注意

(岐阜ラジオ(AM1431)の番組「岐阜医師会ラジオホームドクター」 平成18年12月14日放送)

俗に鼻血と呼ばれる鼻出血はいろいろな原因で起こります。一番多いのは単純性鼻出血で全体の8割にみられるものです。これは、鼻を強くかんだり、鼻をほじって傷をつけたりなど、鼻の粘膜を刺激して起きます。鼻の入り口付近1~2cmの「キーゼルバッハ」からの出血です。ここは毛細血管が集合しており、粘膜も薄いため出血しやすいのです。

子供さんの鼻出血はほとんどがこれにあたいし、座って指で鼻をつまんで圧迫していただくと5分ほどで止まります。鼻にティッシュを詰め込むことは、傷をひろげることもあり、おすすめしません。また、鼻出血を繰り返す子供さんはアレルギー性鼻炎や蓄膿症を合併していますので要注意です。

鼻がムズムズしたり、詰まって苦しいと、どうしてもいじりますので、「鼻を治して~」というサインだと思ってください。

次に動脈性出血があります。中高年で特に高血圧の人に多くみられます。鼻腔の後ろの方にある「蝶口蓋動脈」など、太い血管が動脈硬化で血管壁がもろくなり起こります。出血は激しく、鼻からだけでなく、口からもあふれるほど大量に出ます。この場合はタクシーや救急車で一刻も早く医療機関に受診してください。私どものクリニックにも、年に何人かがタオルで真っ赤にして来られます。出血している血管を見つけ、レーザーや電気メスで焼灼します。なかにはそれでも止血せず、入院施設のある病院に行っていただくこともあります。

高齢化社会になり、近年、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞の治療薬である「抗凝固薬」を服用されてみえる方が多くみられます。血液をサラサラにして血栓をつくらないようにする大事なお薬ですが、鼻出血は止まりにくくなります。たいてい大出血を起こす前に、予兆として、小出血を繰り返しているようです。この時点で近くの耳鼻科で止血処置を行っておけば、大変な思いをしなくてもよいケースも多くありますので、早めの受診をおすすめいたします。

補聴器についてのワンポイントアドバイス

(岐阜ラジオ(AM1431)の番組「岐阜医師会ラジオホームドクター」 平成18年12月7日放送)

アナログ式からデジタル式へこの数年間で補聴器はものすごく進歩しています。
テレビの受信信号もデジタルに変わりつつありますね。より忠実に音を処理し、実際に人が聞いている音に近づきつつあります。またどんどん小型になり、性能もアップしています。しかし、高いお金を出して補聴器を買ったのに、使ってみえない方が以外に多いのです。

「補聴器に期待しすぎていた失望派」

聴器をつければ若い頃と同じように聴こえるのではと、期待していたのだが、実際につけてみると周りの雑音が気になったり、声が響いて聴こえたりして、20万円もかけたのにと、ガッカリしてしまう人です。

「補聴器恐怖症」

自分の娘やお孫さんは補聴器をつけたから何でも聞えていると思いこみます。しかし、ご本人はつけてもみてもあまり効果がなく、聴こえていません。まわりの期待に応えられないことにより、補聴器がいやでいやで仕方なくなります。

私たちは、補聴器を買う前にどのくらい効果が期待できるのか、もしくはどのくらいしか期待できないのかを言葉の聞き取りテストをして判断しています。

人間の声は、高い音、低い音、澄んだ音、濁った音、破裂音など、いろいろな音が複雑に組み合わされています。難聴の方々は音が聴こえにくいだけではなく、音を弁別する能力に問題があるのです。この音を弁別する能力は音を大きくすることによりある程度はよくなりますが、これがよくならない人や、ごく少数ですが、かえって音を大きくして入れると悪くなる人がみえるのです。悪くなる人は補聴器の適応がないこともあります。

アドバイスとしては、補聴器に振り回されないこと。補聴器は生活を便利にする道具の一つにしかすぎません。必ずつけていなければいけないものではなく、自分が聴こえなくて困るような場面にこそっとつけてやればよいのです。

補聴器販売の方にすすめられて困ったときには、耳鼻科のお医者さんに尋ねていただければよいと思います。私も今までに多くの相談を受けてきました。納得されて購入しないと、なんとなく使わなくなってしまうことになりますから。